法人化したら最初に押さえておきたい手続き7選

―「知らなかった」で損をしないために

個人事業から法人化された経営者の方に向けて、設立直後につまずきやすい税務・社会保険・労務のポイントを、期限とあわせて整理しました。

個人事業から法人化(いわゆる「法人成り」)をされた経営者の方から、設立後しばらく経ってから「これ、もっと早く知りたかったです」というご相談をいただくことがよくあります。

法人化は、登記が完了すれば終わりではありません。むしろ、登記が済んだ日から動き出す手続きのほうが数としては多く、しかもその多くに提出期限が設けられています。個人事業の頃には存在しなかった義務が一斉に発生するため、事業の立ち上げに追われているうちに、気づけば期限を過ぎていた、ということが起こりやすいのです。

今回は、設立後の初期段階で特につまずきやすいポイントを、税務・社会保険・労務・経理体制の順に整理します。

POINT 01

税務署等への届出は「期限」がすべて

法人設立後は、税務署のほか、都道府県税事務所・市区町村へも届出が必要になります。代表的なものと、その期限の目安は次のとおりです。

法人設立届出書設立の日以後2か月以内に、税務署へ提出します。定款の写しなどの添付書類が求められます。なお、都道府県・市区町村にも同様の届出が必要で、提出期限は自治体ごとに定められています。
青色申告の承認申請書設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日までが期限とされています。
給与支払事務所等の開設届出書給与の支払事務所を開設した日から1か月以内が期限です。役員報酬を支払う場合、代表者お一人の会社でも提出が必要になります。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書給与の支給人員が常時10人未満である場合に、源泉所得税の納付を年2回にまとめられる制度です。提出した月の翌月末日までに承認があったものとみなされ、その翌月支払分から適用されるという流れになります。

青色申告の申請だけは、絶対に落とせない

数ある届出のなかでも、実務上とりわけ重要なのが青色申告の承認申請書です。青色申告が承認されると、欠損金の繰越控除(赤字を翌期以降に繰り越して所得と相殺できる制度)をはじめ、少額減価償却資産の特例など、中小企業向けの優遇規定の多くを利用できるようになります。

創業初年度は、設備投資や広告宣伝の先行投資により赤字となることも珍しくありません。その赤字を将来の黒字と相殺できるかどうかは、この一枚の提出の有無で決まってしまいます。「登記が落ち着いてから」と後回しにした結果、期限を過ぎてしまったというケースは、実際に起こり得ます。

ポイント: 届出書はいずれも、提出しなかったことによる不利益は事業者側が負うことになります。設立直後の慌ただしい時期だからこそ、期限を一覧にして、まとめて片付けてしまうことをおすすめします。

POINT 02

社会保険への加入は「原則、全法人が対象」

法人化すると、代表者お一人の会社であっても、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所となり、加入義務が発生します。個人事業の頃は国民健康保険・国民年金だった、あるいは従業員数の要件から加入義務がなかった、という状態から一変します。

手続きの期限は短く、新規適用届については事実の発生から5日以内に年金事務所へ提出することとされています。登記完了後、比較的早いタイミングで対応が必要になる手続きです。

資金繰りへの影響を見落としがち

ご相談のなかで最も多いのが、社会保険料の負担を資金繰り計画に織り込んでいなかった、というケースです。社会保険料は会社負担分と個人負担分の双方が発生し、合計するとおおむね報酬額の3割程度の水準になります。役員報酬を高めに設定すると、その分だけ毎月のキャッシュアウトも確実に増えていきます。

「利益が出たら払えばいい」という性質のものではなく、赤字であっても毎月発生する固定的な負担です。役員報酬の水準を決める際には、税額だけでなく、この社会保険料まで含めた月々の資金繰りを試算しておくことが欠かせません。

POINT 03

従業員を雇うなら、労働保険の手続きも

ご家族以外の従業員を雇用する場合には、社会保険とは別に、労働保険(労災保険・雇用保険)の手続きが必要になります。こちらも期限が短く設定されています。

  • 労働保険 保険関係成立届 — 労働基準監督署へ、保険関係が成立した日の翌日から10日以内
  • 雇用保険 適用事業所設置届 — ハローワークへ、設置の日の翌日から10日以内
  • あわせて、労働条件通知書の交付や、就業規則の整備(常時10人以上の場合は作成・届出義務)も検討が必要です

なお、役員は原則として労働者にはあたらないため、労災保険・雇用保険の対象外となるのが一般的です。ただし、使用人兼務役員に該当する場合など、例外的な取扱いもありますので、判断に迷う場合はご確認ください。

POINT 04

役員報酬は「あとから自由に変更できない」

法人の役員報酬が損金として認められるためには、原則として毎月同額を支給する必要があり(定期同額給与)、その金額は事業年度開始の日から3か月を経過する日までに決定することとされています。設立初年度でいえば、設立の日から3か月以内が目安になります。

「最初は少なめにしておいて、利益が出てきたら増やそう」という進め方は、法人の場合そのままでは通用しません。期中に増額した部分は、損金として認められない可能性があります。

逆に言えば、設立から3か月というのは、事業の立ち上げでもっとも慌ただしい時期でありながら、その後1年間の役員報酬を決めなければならない時期でもある、ということです。売上の見通しが不透明ななかでの判断になりますが、だからこそ、複数のシナリオで試算しておく意味があります。

また、賞与に近い性質の支給を予定している場合は、「事前確定届出給与に関する届出書」を事前に提出しておく必要があります。この届出は、届け出たとおりの時期・金額で支給しなければ、原則としてその全額が損金不算入となる取扱いとされており、運用には注意が必要です。

POINT 05

資本金と決算期の設定が、消費税を左右する

消費税の納税義務は、原則として基準期間(前々事業年度)の課税売上高で判定されます。新設法人には基準期間が存在しないため、原則として設立1期目・2期目は納税義務が免除されます。

ただし、事業年度開始の日における資本金の額が1,000万円以上である場合は、この免除の適用を受けられません。「キリが良いから1,000万円で」と決めてしまうと、意図せず初年度から課税事業者となってしまうことがあります。

決算期の設定にも意味がある

意外と意識されないのが、決算期の設定です。設立日から決算日までをどう設定するかによって1期目の月数が決まり、それが免税期間の実質的な長さに影響します。基準期間が1年に満たない場合の課税売上高は月数按分により年換算して判定するといった細かい取扱いもあり、決算期の選び方は消費税の観点からも検討する価値があります。

もちろん、決算期は税務だけで決めるものではありません。繁忙期と決算業務が重ならないか、在庫が少ない時期はいつか、といった実務面の事情もあわせて考えたいところです。いずれにせよ、設立後に変更するには手続きが必要になりますので、設立前の検討が望ましい項目です。

ポイント: インボイス発行事業者として登録するかどうかも、設立時に判断が必要な項目です。登録すると免税事業者であっても課税事業者となるため、取引先の構成を踏まえた検討が必要になります。

POINT 06

会社と個人の財布を、はっきり分ける

個人事業から法人化した際に、意識の切り替えがいちばん難しいのがこの点かもしれません。法人は経営者ご本人とは別の人格ですので、会社のお金と個人のお金は明確に区別する必要があります。

個人事業の頃は、事業用の口座から生活費を引き出しても「事業主貸」として処理すれば済みました。法人ではそうはいかず、会社の口座から個人的な支出をすると「役員貸付金」として処理されることになります。

役員貸付金が積み上がるとどうなるか

役員貸付金が決算書に計上されていると、実務上いくつかの不都合が生じます。

  • 会社は役員から利息を受け取る必要があるとされ、認定利息の計上を求められることがある
  • 金融機関からは、事業に使われていない資金と見られ、融資審査で不利に働くことがある
  • 一度膨らむと解消が難しく、長く決算書に残り続けることになる

対策はシンプルで、法人用の口座とクレジットカードを個人のものとは別に用意し、私的な支出は必ず個人の口座から行うことです。設立直後に仕組みとして分けてしまえば、その後の負担はほとんどありません。

POINT 07

経理・会計の体制は「早めに整えるほど楽になる」

個人事業のときの記帳方法をそのまま引き継いでしまい、後から法人用に整理し直す、というケースもよく見られます。法人では、個人事業とは勘定科目の構成も、求められる帳簿の水準も変わってきます。

設立当初に決めておきたいこと

会計ソフトの選定クラウド会計を使えば、口座やカードの明細を自動で取り込めるため、記帳の手間を大きく減らせます。銀行口座やカードの登録は、開設と同時に済ませてしまうのが効率的です。
証憑の保存ルール領収書・請求書をどこに、どの単位で保管するかを最初に決めておきます。「あとでまとめて」は、まず続きません。
電子帳簿保存法への対応電子的に受け取った請求書や領収書のデータについては、電子データのまま保存することが求められています。紙に印刷して保存するだけでは要件を満たさない場合がありますので、受領方法とあわせて保存の運用を決めておく必要があります。

こうした体制を設立当初に整えておくと、決算時の負担や、税理士とのやり取りにかかる時間を大きく減らすことができます。逆に、1期目を曖昧なまま走り切ってしまうと、決算のタイミングで一年分をまとめて整理し直すことになり、本業の時間を削ることになりかねません。

法人化前後のご相談、承っております

法人化は、事業を次のステージに進める大きな一歩です。一方で、今回ご紹介したように、期限や判断のタイミングを逃すと取り戻せないルールも少なくありません。手続きの整理から、資本金・決算期の設定、資金繰りや税務全般のご相談まで、スピード感を持ってサポートいたします。設立をご検討中の段階でのご相談も歓迎しております。

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※本記事は、一般的な取扱いについて執筆時点の情報をもとに解説したものです。届出の期限や要件は、自治体や個別の事情によって異なる場合があります。実際のご判断にあたっては、最新の情報とあわせて税理士等の専門家にご確認ください。